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2015年4月16日木曜日

「他社特許の壁を突破する!(第02弾) 容器詰液体調調味料(特許第4772580号)を題材に」~実践的知財勉強会@MIP第04回開催報告

■討議テーマ
他社特許の壁を突破する!(第02弾) 容器詰液体調調味料(特許第4772580号)


■討議内容


今回は、


前回と、同じく、


他社特許の壁を突破する!


をテーマに討議を進めました。


題材は、前回と同様




です。


前回は、この特許公報から、


・なぜ、その構成要素が必要なのか?
・経過情報で、権利範囲が狭められているところはどこか?


という視点で、討議しました。


今回は、それまでの「発散」的にあつめたアイディアを、「収束」的に「整理」しました。


整理する過程で、複数のアイディアから「筋の良いアイディア」をピックアップし、
この事例はいったん終了となります。


さてさて、


勉強会は、


「回避したい特許の『課題』をつかむ」


をテーマに、


まず、


 個人で考える
 ペアで考える
 発表


という流れで行いました(いきなり全員で討議するのではなく、まず「個人で考える」「ペアで討議する」のが、実践的知財勉強会流です(というより、元々は、 発明塾 の手法ですが。)。


そもそも、この発明は、「減塩調味料」ですから、「Na」自体は必須の要素です。
Naの代替手段を考えるのは至難の業ですから、次の構成要素である、カリウムに注目し、
以下のアイディアを出してみました。


・カリウムを減らす→原子周期表の一族で代用できないか。
・うまみや香りを使って代用(マスキング)する。→カリウムの量を減らしていくことが目的
・カリウムの苦み成分を阻害するためのレセプターの役割がある薬を使う。
・コハク酸といわれるホタテの旨み成分を使用(アミノ酸の代用品を使うことで、カリウムの量を減らす)
・体に吸収する前に、防ぐことができないのか。
・舌に物理的な刺激を与えて苦みを減らせないか→舌に痛みを与えると辛みに変わり、塩味等が感じられなくなる。
・カリウムの量を減らす→塩味が減るので、ペプチド(アミノ酸が連なったもの)を使ったらどうか。ペプチド→コーラにも使われている。血圧を下げる効果もあるので、カリウムを使わなくてもよくなる
・血圧上昇を抑えればよいのではないか。


上記内容を、例えば、
 複数の意見が出る過程で、そもそもこの発明は「Naを減らすことで、血圧の上昇を抑える醤油を開発したいのでは?」という意見が出ました。


つまり、


 血圧の上昇を抑える(上位の課題)
  ┗Naを減らしたい(中位の課題)
   ┗塩味を減らしたくない(下位の課題1)-K(カリウム)を加える(手段1)
   ┗Kを加えつつ、Kから生じる異味を減らしたい(下位の課題2)-アミノ酸等を加える(手段2)


 という構造が見えてきました(実際には、より詳細な階層構造で整理しました)。
 
 
 図 減塩調味料に関する「課題-解決ロジックツリー」


勉強会メンバーの方が作ってくださった、議事録によれば、


・口に投入前→食品のカリウムの使用量を減らす(マスキングや原子周期表の1属、ペプチド、コハク酸)血圧上昇を抑える他の物質を使用、粉末にする。
・口に投入後→下に苦味を感じさせないような物理的や化学的アプローチはないか。
・体内での吸収前→血圧上昇のためにカリウム使用という効果もあるので、カプセルなどで包んだらどうか。口の中ではカリウムが包まれているので、苦味が感じられず、胃で溶かされることで苦味を生じず血圧上昇を防げる。
というアプローチでまとめられるとされています。


次に、


【請求項1】 に記載の、 アスパラギン酸、グルタミン酸に関して、討議しました(やることは、上記カリウムの時と同様です)


・ナトリウムを減らすために、カプセルに粉末にして飲むことで、アミノ酸等はいらないのでは。
・数値限定を変えるだけでは、美味しくなくなると考えるので、おいしくなる物資を加える。
増やすか、減らすか、変えるかが主流。しかし、公報では増やすはNG。似たような手段で入れ替えるか、課題を違うものにして変えるか等、代替でもいろんなアプローチがあるのではないか。
・ ペプチドを使う。酸性ではなくて、アルカリ性か中性のアミノ酸を使う。
・アルカリ性のアミノ酸。塩基性アミノ酸を使うことは周知技術。
・香料を使う。容器詰めの段階でアミノ酸がないといけない(この特許では、容器詰めがクレームにあるので)→口の中でアミノ酸が生まれれば権利侵害にならないのではないか。プロテアーゼとペプチドを体内で合成してアミノ酸を生成する→間接侵害になるのではないか→注射器に関する前例があったような気が。
・カリウムは血圧上昇を抑える効果がある。なので、カプセルに包み胃で破裂して吸収するという風にすればいいのでは。
などの意見が出ました。


これらを、まとめると


・口腔内投入前→代用(ペプチドやジペプチドを使用、酸性ではなく塩基、中性のアミノ酸を使用。)。カリウム量を減らす。
・口腔内投入後→香料を使う(香りで苦味を消す)。口の中でアミノ酸を作る。
・体内での吸収前→カリウムをカプセルにすることで、アミノ酸を使用しなくても良くする。
というアプローチがありそうです。
※ このあと、最後の構成要素である、エタノールに関しても議論したのですが、紙面の都合上割愛します。


最後に、ここまで討議してきた、他社特許突破のための方法論を、フロー化すると


(1).回避したい特許の「課題」をつかむ
(2)独立項を抽出する
(3)独立項を構成要素に分解する
(4)回避アイディアを出していく
 ①構成要素へ「ツッコミ」を入れていくパターン(どちらかというと「回避論」
 ②課題をロジックツリーで整理し、他の代替手段を模索する(「突破論」)
 ③経過情報から相手の「スキ」をつく
(5) でてきたアイディアのうち、筋の良さそうな発明を1つピックアップする
(6) 再度のクリアランス調査 ⇒ 次回勉強会のテーマにつながります


となりました。また、折を見て、よい事例をピックアップし、上記フローを見直す機会を作りたいと思います(そのころは、上記フローもいい意味で「陳腐化」しているかもしれませんね。と未来の自分へメッセージを残しておきます)

■次回のテーマ
今回(第04回)で、「他社特許の壁を突破する!」をテーマにした討議は終了です。


第05回からは、


クリアランス調査(第01弾) 容器詰液体調調味料(特開2007-289083)


をテーマに、討議していく予定です!


勉強会で、他のメンバーにおいて行かれないように、がんばります!

(勉強会にご興味ある方は、湯浅までご連絡ください)

2015年4月15日水曜日

「他社特許の壁を突破する!(第02弾) 容器詰液体調調味料(特許第4772580号)を題材に」~実践的知財勉強会@MIP第03回開催報告

■討議テーマ
他社特許の壁を突破する!(第02弾) 容器詰液体調調味料(特許第4772580号)

■討議内容

今回は、

前回と、同じく、

他社特許の壁を突破する!

をテーマに討議を進めました。

題材は、前回と同様


です。

まずは、この特許の課題を整理しました。

特許発明の課題は、【発明が解決しようとする課題】にかかれています

ここで、注意すべきは、特許公報にかかれている内容すべてが「真実」というわけではない

ということです。

特許は、あくまでも「法律で決められた条件(要件)」をクリアすれば付与されるものです

「進歩性」や「実施可能要件」などをクリアできるのであれば、

その発明が本当に解決しようとしている課題(問題点)を書く必要はありません。

この特許の課題は、【0004】にかかれています。

【発明が解決しようとする課題】
【0004】  前述の従来技術においては、カリウム由来の異味抑制に十分な効果が得られない、風味 バランスが損なわれてしまうなどの課題があり、継続摂取が可能な風味とは言えないのが 現状である。従って、ナトリウム量が少ないにもかかわらず塩味が増強され、カリウム由 来の異味が抑制されて風味バランス良好で、継続摂取可能な容器詰液体調味料を得ること が望まれている。本発明の目的は、ナトリウム量が少ないにもかかわらず塩味が増強され、カリウム由来 の異味が抑制されて風味バランス良好で、継続摂取可能な容器詰液体調味料を提供することにある。

つまり、この発明は、

Na量を減らした分の塩味を、カリウムでカバーする⇒カリウム由来の異味が生じてしまう

という点に注目した発明と言えます。

この内容はあくまでも、「この特許」が想定した課題ですから、
「真の課題は別にあるのでは?」と疑いつつも、読み進めます。

なお、メンバーからでた意見の一部を紹介します。
・ナトリウムの過剰摂取を抑えたいという要望があるなかで、風味バランス良好で摂取できる液体調味料を提供する。
発酵調味料としてアルコールが入っていても売れる(10%くらい)+酒税もかからない。
風味バランスの良好+継続摂取可能(進歩性が出せるのか?)が課題。花王は自社引用の先行技術が多い。→先行技術から足りなかったものを読み取り、課題を見つけるとよい。
バランス調整して克服していく(ナトリウムを少なく、カリウムを増やすといった)
また、この時点ででた話題としては、
なぜ、「容器詰液体調味料」として権利化しているのか?
→商品イメージとして権利を取りたいのか。
→濃縮して容器詰してしまえば回避できるという手段があったのではないか。権利行使しやすい。固形物がある調味料を想定していたのでは。
→容器詰ではないと、他の先行技術も含まれてしまい、進歩性や新規制の部分で特許取得が難しかったのではないか。
というものがありました。

次に、独立項である【請求項1】を、各構成要素に分解しました。

請求項1
 次の成分(A)、(B)、(C)及び(D)、
(A)ナトリウム                  3.6~5.5質量
(B)カリウム                   0.5~6質量%
(C)酸性アミノ酸が2質量%超であってアスパラギン酸1質量%超~3質量%以下及
びグルタミン酸1質量%超~2質量%以下
(D)エタノール                  1~10質量%
を含有する容器詰液体調味料。

※下線は、審査段階で「補正」された部分

細かい討議は割愛しますが、

構成要素のうち、ABは技術常識。Cが本発明のポイントでは?
その根拠として、ABCが一緒でDだけが違う特許404014320041118日)があった。
→アルコールあり、なしで特許をとったのか。群でとった可能性がある。なので、やはりアミノ酸が大事なのでは。

という、暫定的な結論が出ました。

また、本発明は、審査の過程で、補正がされています。

そこで、経過情報を見て、権利範囲から除外された部分が判明すれば、
侵害回避/突破のアイディアあるのでは?という視点で、討議しました。

権利範囲を限定している部分を見抜き、スキを突く作戦です

詳細は割愛ますが、

元の出願では、「アミノ酸」のうち、酸性と塩基性どちらも権利範囲ではあった。
※ 塩基性とは、いわゆるアルカリ性のことです。

しかし、審査の過程で、塩基性は補正により削除し、

アスパラギン酸(酸性アミノ酸)
グルタミン酸(酸性アミノ酸)

のみを権利範囲にしていました。

そこで、一つのアイディアとして、

酸性を用いず、塩基性アミノ酸の中から、風味バランスを良好にする調味料を開発することができれば、この特許を回避/突破できるのでは?

という意見が出ました(あくまでも、アイディアの1つです)。

それ以外にも、

酸性アミノ酸を先行文献の公知技術である糖類に置き換えられるのではないか。
・アスパラギン酸及びグルタミン酸の部分を[0011]に列挙されている物質の組合せで作れないのか。
・粘度をあげる。下に沈殿させて濃度をあげる。
>調べたところ、このアイディアは実際に他社が出願していました
・黒い色素を入れる。プラシーボ(視覚)効果を入れる。
・元素周期表にしたがって、Ⅰ族の元素(族が同じだと特性が近似するため)を試してみるのはどうか?
>具体的には、リチウムなどですが、こちらも調べたところ、近い視点の研究論文が存在しておりました。
などのアイディアが出ていました。



図 元素周期表 



■次回のテーマ
このブログを書いている時点では、すでに第4回は終了しています。

第5回は、

クリアランス調査(第01弾) 容器詰液体調調味料(特開2007-289083)

を行う予定です